組織であれ個人であれ、具体的な目標を設定し、そこに向かって挑戦しなければ大きな成長は見込めまません。また、困難な状況に陥った時こそ、明確な目標が一歩を踏み出す勇気の源泉にもなります。ただし、会社組織の場合、目標とはいっても、それが上からの命令では単なる「押し付け」になってしまうでしょう。押し付けでは人は動きません。やらされているという受け身の姿勢では、大きな力を発揮することができず、成果も生まれません。
組織といっても、結局は個人に帰着します。一人ひとりに目標へのモチベーションが高まっているかどうか、そこに成果を生み出す分岐点があると言えるでしょう。そこで、このモチベーションについて考えてみたいと思います。
まずは以下の図をご確認ください。
これは、人のモチベーションの動きをイメージ化したモチベーション曲線です。まず、モチベーションには2つあることを理解してください。一つは青で示した「ネガティブモチベーション」。これは"危機感"を動因として生じるモチベーションです。「このままだとボーナスでないぞ!」「給料下がるぞ!」「人員を削減しないといけなくなるぞ!」などと叱咤されて、「これはマズい」という焦りや危機感から仕方なく生じるモチベーションです。
このネガティブモチベーションは、イメージ曲線で表したように長くは維持できません。短期的には一気に上昇しますが、持続時間は短いのです。以前、ある経営者に相談されたことがあります。「この一年、私は毎朝の朝礼で社員に危機感を植え付けようと、経営環境の厳しさや悪化した収益性について社員に言い聞かせ続けてきましたが、一向に社員のやる気が見えないんです」と。
私は簡単にこの図を描いて答えました。「社長、従業員の皆様のモチベーションはおそらくこの辺りにあります」と。もちろん、ネガティブモチベーションの時間の経過とともに下がり切った線上を指し示した上で。要するに、危機感を煽るだけでは人のモチベーションはコントロールできないということです。
そこで大切になるのが赤で示した「ポジティブモチベーション」です。これは期待感によって発動するモチベーションです。イメージ曲線のように、最初はあまり上がりません。人は期待を持たせるような話は簡単には信じないからです。「この目標がクリアできれば、会社はこのような環境に変わっていきます!」「これを実践していくことで、各人が成長できます!」等々。
しかし、目標に向かって行動してく過程で「少しずつ変わってきた」「成果が出始めてきた」と実感が伴っていくことで、期待感は膨らみ始め、同時にポジティブモチベーションが働きだすことになります。そしてその期待感が維持、増幅されるに従ってポジティブモチベーションも維持されることになります。
これでわかる通り、最初の動機付けとしてはネガティブモチベーションは役立つこともありますが、それと並行して部下の期待感を生み出す、具体的な目的や目標の明示とその達成のための実践的な行動計画が不可欠となるのです。